Boxを“使われる場”にする統制と自動化の仕組み
Boxを“使われる場”にする統制と自動化の仕組み

出前館はアプリやWebサイトから注文することで料理が運ばれてくる国内最大級のデリバリーサービスの運営を行っています。創業から20年以上の歴史を持ち、現在の従業員数は約450名、業務委託を含めると1,500名近くになるため、Box Enterpriseプランを必要とする組織規模です。
そこで今回は「自動化と情報統制」をテーマに、Box導入時に課題としてあげた「コラボレーション設定の煩雑さ」と「グループ機能の無制限開放による統制不安」を解決する、組織連携の自動化事例をご紹介します。さらには、Box Hubsを活用した全社ポータルによる情報アクセス性向上の取り組みもお伝えします。

IT 本部 情報システム部 IT 戦略グループ 髙橋 悠人⽒
Box導入の背景 — 出前館が目指した情報管理の変革
私たち情報システム部が目指す方向性として「デジタル化」「モダン化」「AI化」の3つのテーマを掲げています。
現在出前館では、グループ会社と一部のシステムを共有している状況ですが、今後はこの3つの目標を意識しながら出前館独自のシステムへと移行し、独立していく方針です。
システムの基本的な考え方として「モノは持たない」SaaSをベースにベスト・オブ・ブリードで構成しており、各サービスの強みを活かし組み合わせることで社内システム全体を構築しています。Boxもストレージ分野を担うサービスとして導入しました。

Box導入前の課題として、出前館はもともと関連会社のBoxを「間借り」する形で利用しており、関連会社が別会社と合併した後もこの形式は変わらなかったことが挙げられます。
そのため、当社に管理者権限がなく、出前館に適した活用設定や連携ができなかったり、迅速なトラブル対応ができなかったり、関連会社・合併会社のポリシーにより機密データを管理できなかったりといった状況がありました。
これらの課題を踏まえ、出前館独自のBox環境を構築することを決定。諸事情により移行期間は2ヶ月というハードでタイトなスケジュールでしたが、Box社のサポートやユーザーの協力により、導入を実現しました。
Boxを軸にした導入アーキテクチャと連携施策 — Okta/iPaaS/社内システムとの統合
Box環境としては6種類のフォルダを用意し、 それぞれ共有範囲に違いを持たせ使い分けて利用しています。

Boxのフォルダ構成は、クローズドな環境を採用。TOPフォルダの所有者アカウントを分けることによって、下位階層のフォルダに設定を反映させており、この設定が先述のフォルダ種別の共有範囲に影響しています。

その上で、導入後の課題を2点ご紹介します。
課題1:フォルダ作成依頼の処理負荷
ユーザー視点でのTOPフォルダである第2階層は全て管理者が作成し、コラボレーション付与を行う必要があります。しかし、Box管理者アカウントにログインできるユーザーは数人しかおらず、かつ他の業務もあるため、出前館全体のユーザーから来るフォルダ作成依頼をさばくのは継続困難な状況でした。
そこで、kickflowを導入し自動化の実装を行いました。具体的には、kickflowがフォルダ作成依頼の申請受付と情報取得を行い、RPAであるWorkatoに送信。受け取った情報をもとに、Box上にフォルダを作成しコラボレーションを付与します。この運用において、情報システム部が行う作業はkickflowでの承認のみとなりました。

課題2:コラボレーション管理の負荷と統制
Boxを運用していく上で、ユーザー・共同所有者から「共同所有者になったけど、部全体のコラボレーションを1人ずつ増やしていくのが面倒」という声があがりました。本部・部・グループなど組織ごとで管理しているBoxフォルダは何十人・何百人分とあり、さらには全社員が閲覧できるBoxを作成する場合1,000人以上のコラボレーションを付与する必要がありました。これを手作業で行うと大きな工数がかかります。
また、情報セキュリティ担当からの要求として、「組織変更や人事異動の際は権限(Boxで言うところのコラボレーション)の棚卸を徹底してほしい」「グループの作成・管理機能をユーザーに開放するのは情報統制上不安」という声があがりました。組織ごとのグループや任意のグループをユーザーが作成・管理することは、メンテナンスなどが行われない可能性があるため情報統制上不安が大きく、組織ごとで管理しているBoxフォルダを、組織変更・人事異動が起こるたびに手作業で棚卸をしなければならない状況も課題だったのです。
そこで、組織情報に基づいたグループの自動作成及び、メンテナンスの仕組みを構築することで、ユーザーの要望を全て満たすことができると判断し、設計に取り組みました。連携したシステムはSmartHR(HRシステム)、Okta(idp)、Workato(IPaaS)、そしてBoxの4つです。

具体的には、SmartHRが保持している組織情報を人事が変更すると、Oktaのユーザープロファイル組織情報も同期され、その変更がトリガーとなり、Warkatoが組織情報を取得します。
その後、Okta上に組織グループが存在するかを判断し、存在する場合は既存の組織にメンバーの追加・削除、存在しない場合は組織グループを新規作成しグループにメンバーの追加を行います。作成・編集されたOktaの組織グループをBox上に同期することで、Box上に最新の組織に基づいた権限グループが作成されるという流れです。
さらに、このシステムの運用中に気づいた課題がありました。

自動メンテナンスされるのはグループ内のメンバーのみのため、メンバーがゼロになってもOkta・Boxともにグループの箱が残ってしまいます。メンバーがいないグループの箱が残ってしまうことで、ユーザーの検索性や同じ名前の組織ができた際の自動化フローに影響が出る可能性があります。現在対応中ですが、日付をトリガーにして、WorkatoがBox・Okta上にあるメンバーがゼロのグループを削除するフローを構築中です。
Boxで実現した業務変革とAI時代への布石
Box導入後の課題解決をした結果の定量・定性効果をご紹介します。
- 手動の場合に発生する棚卸し・メンテナンス工数を160時間/年 以上削減
今回行ったメンテナンスの自動化を全て手動で行う場合、四半期に1度棚卸しが必要でしたが、自動化で全く不要になりました。 - 個人ごとにコラボレーションを行う工数を260時間以上削減
自動化により作成された権限グループを利用し、付与されたコラボレーション数を調べると約1万5,000件でした。コラボレーション付与にかかる時間を1分と仮定して計算しています。 - コラボレーションに関しての問い合わせが自動化後、約90%減少
解決前に約10件/月発生していた問い合わせが、自動化後はほぼ来なくなりました。 - 自動メンテナンスによる情報統制の実現
手動での作業がなくなることにより人的ミスがゼロになり、情報統制がより取れるようになりました。
このように効果が出てきた中で、また新たな課題が発生しました。それは「全社資料を格納しているフォルダの階層が多く、お目当ての資料までたどり着くのに時間がかかる、もしくは探せない」というユーザーからの声です。実際に、「就業規則を探す」という内容で確認してみると、確かにたどり着くまでにフォルダやファイルが多く、ユーザーが迷ってしまうのも理解できるほどでした。
そこで、この課題の解決策として、Box Hubsによるポータルページを作成することにしました。Boxカスタマーサクセス担当に相談し試行錯誤した結果、導き出した手法です。
Box HubsはBox Enterpriseプランで利用できる機能で、Box上のコンテンツをポータルページとして整理・公開することが可能です。この機能によりユーザーはフォルダを開かなくても、1つのページで必要な情報にすぐアクセス可能になります。
まさに、Boxをただの「ファイル倉庫」から「使うための場所」へ変えるための施策です。
実装事例としては、経営企画グループと協力して整理・公開した「社内規定」や、デザイン部と協力して出前館のロゴなどを整理・公開した「Brand Resource」などが挙げられます。
Box Hubsはデザイン部によりサイト専用のバナーも作成され、見やすさ・わかりやすさなどにも力を入れています。

また、出前館ではBox AIを有効にしており、AIを活用してデータの検索性と情報取得の効率を高めています。情報システム部が目指している全社の「AI化」の一例として良い機会となっています。
そのため、Box Hubs導入による効果として、次のような結果がでています。
- 目的の資料を見つけるまでの「探す時間」を約92%削減
例えば就業規則を探す際、Box Hubsを利用していない場合は約3分、利用している場合は約15秒と大幅な改善が見られました。 - Box AIにより文書内容の検索性向上
特に、文字が多い社内規定関連で大きな効果が期待できます。 - Hubsに集約した資料に関する問い合わせがほぼゼロに
Box Hubs作成前に来ていた「この資料はどこにあるのか」といった問い合わせ(約10件/月)が全てなくなりました。数値が激減した背景には、ユーザーが自ら情報を探しやすくなったことがあります。集約した資料の改定があった場合でも、Box HubsのURLを共有するだけで良いので、管理者側も運用が楽になりました。
最後にまとめ
情報の整備やそれを支える自動化の仕組みは、ユーザーの対応負荷を軽減し、業務効率を高める上で非常に効果的です。それだけにとどまらず、アクセス範囲の明確化や更新・棚卸しの容易化によって、情報統制やセキュリティ維持にも大きく貢献します。
効率化と統制の両立を図るために、日々の運用における仕組み作りは今後ますます重要になっていくと考えます。その上で、Boxはそれらを可能にする組織全体の情報活用と統制の土台となる存在です。
当社は今後も現場の声をもとに、Boxを軸にした仕組みを改善していく方針を掲げており、「“Boxをファイル倉庫から、使うための場所へ”を目指して」という目標を実現していきます。
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