大学統合への挑戦とBox AI学内展開のアプローチ
大学統合への挑戦とBox AI学内展開のアプローチ

東京科学大学(Science Tokyo)は、2大学の統合によって誕生した新しい大学です。統合にあたり、学生・教職員向けにBoxを全学導入しました。本稿では、Boxの設計方針やデータ集約・共有の進め方、導入時に直面した課題を含めて事例を共有します。さらに、Box内のデータを発展的に活用するアシスタントとしてBox AIに注目し、学内の生成AI利活用のムーブメントと連動した展開についてご紹介します。

情報部情報企画課デジタル変革グループ 主任 橋本 奏⽒
大学統合がもたらしたIT課題とBox導入の決断
東京科学大学は、東京医科歯科大学と東京工業大学が統合して2024年10月に誕生した国立大学です。学生数・教職員数の規模は約25,000人(学生15,000人/教職員10,000人)。理学工学系の大学と医学歯学系の大学という、全く異なるバックグラウンドを持つ両校が統合しました。加えて、学院や学部のほか、リベラルアーツ研究教育院、教育研究関連センター、病院、附属高校なども有する組織です。
Box導入の経緯は、旧東工大では2020年から学内ストレージとしてBoxを採用していた一方、旧医科歯科大ではMicrosoft 365(SharePoint・OneDrive)を利用していたことに端を発します。そのため、現理事長・学長を中心としたトップ会議で利用方針を整理し、新大学の統合クラウドストレージとしてBoxを導入することを決定しました。
Box選定の決め手は、セキュリティ機能の充実、データ復旧の容易さ(機能面と問い合わせ対応のスピードという両面で評価)、容量無制限などです。さらに、「誰がデータを持ち、どのように共有しているか」が見えにくいという従来の課題に対し、ガバナンスの取れたフォルダ設計を実現できる点も大きな魅力でした。
Boxで作る学内データ基盤
本学ではBoxを「安全・安心な環境のもとで円滑にデータ共有し、有効活用する場」と位置づけ、利用ポリシーを策定しました。
設計段階では、学内・学外のコラボレーションを含むさまざまな場面を想定し、大学生活におけるデータ保存・共有の基盤としてBoxを設計しました。
具体的には、事務局の業務データ、研究室運営や企業との共同研究データ、学生との提出物のやり取りや講義資料の共有、役員会議資料など、理事長・学長から高校を卒業したばかりの学部1年生まで、すべての構成員が利用できるプラットフォームとなっています。

大学統合に伴うIT部門の課題としては、人に関するデータ(人事・学生・その他利用者情報)の統合、認証・認可の問題、自動化停止や工数増大などのシステム的な課題が挙げられます。
また、大学統合後も各部署が業務負荷を最小限に抑えようとした結果、システム統合が後回しになるなど、IT部門に大きな負荷がかかりました。もし組織統合のタイミングでIT部門に着任される場合は、冷静な対応と柔軟な心構えが求められると感じます。
私たちは、そんな苦労を経験しながらも「Science Tokyo Box」をスタートさせたからには、学内の価値あるデータを集約・共有していくことはもちろんのこと、活用・協力を進めたいと思っています。
それによる効果として、今まで手が届かなかった情報と出会う機会を増やし、2校が1つの大学になったことで新しく生まれる研究と教育や大学運営の価値をBoxでもサポートしていきたいと考えています。そして、大学統合による緊急対応で下火になっていた大学DXをそろそろ再興させたいタイミングで、私たちはBox AIに注目しました。
Box AIで進める大学DX — 試行導入と業務での具体的活用
当校はBox Enterprise Plusプランを契約しているため、Box AI for Notes/Box AI for Documents/Box AI for Hubs/Box AI for Slackなどの機能を利用できます。ただし、これらの機能を単に使うだけでは不十分と考え、学内で有効な活用方法を共有しながら、生成AI利用時の注意点を理解し、安全かつ安心に運用していくことを重視しています。
そこでBox AI導入前の下準備として、「生成AI利用ガイドライン」の整備と、グッドプラクティス(Good Practice)の事例共有の場としてSlackを活用しました。Slack内では、トピックごとのチャンネルを作成し、興味のあるメンバーが自主的に参加できる生成AIコミュニティを形成。ニュースや実践事例の共有を通じて、大学全体でナレッジを蓄積・スキルアップすることを目指しています。
このように、自主的に参加できるコミュニティとして展開したところ、現在1,000名以上が登録しており、日々活発な投稿が行われています。
こうした生成AI活用のムーブメントを起こしながら、2025年6月からBox AIの試行導入を開始。結果として大きな反響がありました。
教職員向けに開催した勉強会には、自由参加型の学内イベントとしては異例の250人が参加、9月初旬時点でのBox AI利用者は500名。アナリティクスで確認すると、1日に大体200〜300回Box AIに質問して大学業務(研究・教育活動)をしており、Box AI for Hubsのトライアルには20チーム以上が参加している状況です。

Box AIの本学業務での活用事例を一部紹介すると……
- 学内会議資料を読む際、最初にBox AIで概要をざっと把握する
- 学内英語用語集や英語の公式文書をRAG(※)にして、翻訳時の固有名詞や表現の質を向上
- 台帳として利用しているスプレッドシートの数式誤りや故障のチェック
- 競争的研究費に応募するために、研究計画調書の改善点を提案してもらう
- 情報システムのマニュアルや学内ガイドラインを格納したBox AI for Hubsでスキルアップ
- 旅費手続きの学内マニュアルを格納した「AI旅費マニュアル」が出張をサポート
※RAG:「Retrieval-Augmented Generation」の略。AIが外部データを検索して、それをもとに答えを作る方法。LLMの静的な記憶に頼らず、正確さを高めることが可能
特にここ最近、一番インパクトがあったのは「AI旅費マニュアル」です。当校の経理課、旅費謝金グループのメンバーが作成し、出張申請や旅費計算方法、よくある質問などを格納しました。ここで出張に関する質問をすると、当校の旅費のルールに則った回答が出てきます。
例えば「イギリスに出張に行くため、支給対象や実費の予算を教えてください」と聞くと、「日当や移動費が出ます」「タクシー代は気をつけてくださいね」「外部資金を使うときは別途確認が必要ですよ」といったことを教えてくれます。
この機能を公開してから最初の5日間で700回以上のアクセスがあり、海外研究者の多言語利用も可能で、業務支援としての即時性が評価されています。

今後の展望
最後に今後の展望を紹介します。大学統合にあたり、さまざまな活動をスタートしましたが、本格的な業務統合は今後数年をかけて進めていく予定です。
- 学内の他アプリケーションとのデータ連携を実現し、Boxでのデータ集約・共有・活用をさらに加速させる
- データ集約が進むことでBox AIの利用価値を高め、学内メンバーのパフォーマンスを新たな領域へ高める
- Box AIの利用を教職員のトライアルから、学生も含めた全学展開へと拡大するための合意形成とルールづくり
今後も、これらの課題を一つひとつ着実にクリアしていくことで、大学DXの推進に貢献していきたいと考えています。
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※Box Square「お客様事例」ページトップ画像提供:国立大学法人東京科学大学
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