直筆で署名するために必要だった英訳ページの印刷が必要なくなり、1機あたり4,000枚以上を削減。さらに、サイン済みページのスキャンやPDF化、原紙への挿入作業も不要に
Box Signで電子サインした署名済みのPDFは読み取り専用となるため、改ざんが不可。複数の英訳ページがある1つのPDFに対しても1枚ずつではなく、1回の電子サインで完了
英訳・サイン業務に1機あたり約2,100MHRを要していたが、Box Sign導入後は約1,200MHRとなり、ほぼ半減(-43%)させることに成功
印刷、直筆サイン、スキャン不要で、リモートワークが可能に。運搬、スキャン、PDF編集時の紛失リスクや抜け漏れリスクも排除
1952年の創業以来、日本を代表する航空会社として安全・高品質な航空サービスを提供し、今日ではアジアを代表するエアライングループの1つに数えられるまでに成長した全日本空輸株式会社(以下、ANA)。「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」という経営理念のもと、エアライン事業を中心に「挑戦し続ける」「強く生まれ変わる」「お客様に寄り添う」姿勢を持ち続けながら社会の発展に貢献し、「夢あふれる未来」を創る一翼を担うことを目指しています。
ANAの機体計画部では、航空機の整備帳票の英訳・サイン業務に課題を抱えていました。従来は、英訳したPDFに対して印刷・直筆サイン・スキャン・編集などの手作業が必要でした。多大な時間と労力がかかる上に紛失や抜け漏れのリスクがあり、必ず出社して作業する必要もありました。そこで、Boxに組み込まれた電子サイン「Box Sign」とワークフロー自動化「Box Relay」を組み合わせて作業プロセスをデジタル化した結果、英訳・サイン業務を簡素化し、生産性向上、働き方改革、ペーパーレス化を実現しました。
整備帳票の英訳・サイン業務における課題
ANAの機体計画部は、事業計画に基づき、航空機の効率的な整備計画の策定および管理を行う部署です。どの機体を、どの場所で、どれだけの期間で整備するのか。お客様に安全で高品質な機体を提供するために各部署と連携しながら、ドックやラインの整備の計画をはじめ、整備体制の構築や運航ダイヤとの調整など多岐にわたる業務を担っています。
「日本の航空法で義務づけられている整備帳票の管理も機体計画部が担う重要な業務です。整備帳票はFAA(米国連邦航空局)やEASA(欧州航空安全機関)などの諸外国の航空産業では英語表記が要件化されているものの、日本では法要件化されておらず、一定程度日本語が存在します。しかし、航空機をリースして運航する場合は共通言語として英語が用いられているため、日本語帳票については英訳ならびにそれに対するサイン(署名)が求められます」(整備センター 機体事業室 機体計画部 航空機売却・リースチーム Manager 赤井美則氏)
そのため、機体計画部ではグループ会社と連係しながら、これまで以下のプロセスで日本語帳票の英訳ならびにサイン(以下、英訳・サイン業務)を実施していました。
- ① 収集: 該当する機体の整備帳票が含まれる箱を集める
- ② PDF化: 箱の中にある整備帳票をスキャンしてPDF化
- ③ 英訳: PDFの中で英訳が必要なページを抽出して翻訳
- ④ 印刷: 英訳ページを印刷して、確認場所へ運搬
- ⑤ サイン: 英訳サイナーが確認して1枚ずつ直筆でサイン(英訳修正が必要な場合はPDFを修正し、再度印刷後にサイン)
- ⑥ PDF化: サイン済みページをスキャンしてPDF化
- ⑦ PDF編集: 元のPDF内の該当ページに挿入 (紙の書類は整備帳票原紙へ挿入)
- ⑧ Box保存: 完成したPDFをBox上の提出用フォルダに格納
- ⑨ 顧客へ提出: リース会社などにBoxでファイル共有
しかし、こうした従来のプロセスにはいくつかの課題が存在しました。それは、1枚ずつ直筆でサインするため、印刷・サイン・スキャンなどに多大な時間と労力がかかること、PDF化やPDF編集時に紛失リスクや抜け漏れリスクがあること、英訳の確認やサイン、印刷、スキャンなどのために出社を余儀なくされることです。
「整備帳票は8年ほど運航していた航空機で、1万5,000オーダー数くらいあります。1オーダーというのは整備・点検を行う回数で、1オーダーにつき2ページで済む場合もあれば、30ページに及ぶ場合もあります。トータルの枚数をカウントするのは難しいのですが、段ボール箱で1機あたり30箱くらいになります」(赤井氏)
Box Signで電子サインをオンラインで完結
そこで機体計画部は、課題解決に向けて、英訳・サイン業務をオンラインで完結できる電子サインソリューションの導入検討を進め、2019年6月から社外との大容量ファイル授受に利用しているBoxの電子サイン機能「Box Sign」を2024年6月より採用することにしました。
「Boxであれば、英訳済みファイルの保存からサイン、顧客への提出(大容量ファイルの送信)までを完結できます。また、追加コストが発生せず、署名数の制限もありません。検討段階でBox Japanの担当者に相談したところ、トライアル環境の早期構築や丁寧なフォローがあり、安心して導入を進められたことも採用の決め手となりました」(整備センター 機体事業室 機体計画部 フリート計画チーム Manager 保屋野貴匡氏)
さらに、ANAが定めるセキュリティポリシーでは、機密レベルに合わせたセキュリティ対策が求められますが、整備帳票に対して十分な安全性を担保することができた点も大きな採用理由の1つだったと言います。
Box Sign導入後、英訳・サイン業務のプロセスは大きく効率化されました。日本語帳票を英訳するまでの作業(①〜③)に変更はないものの、その後の工程では、英訳したPDFはBoxに格納され、英訳サイナーはBox上で英訳を確認してBox Signで電子サインを行います。これにより、英訳したページの印刷および確認場所への運搬(④)が不要になりました。また、Box Signでは複数の英訳ページがある1つのPDFに対して1回の電子サインで済むようになったほか(⑤)、英訳修正時の印刷や、サイン後のPDF化やPDF編集、サイン済みページの整備帳票原紙への挿入(⑥〜⑦)も必要なくなりました。
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「手書きでサインしていたときは、改ざんを防止するために1枚ずつサインする必要がありました。しかし、Box Signでサインを行うと、署名済みのPDFは読み取り専用となり、改ざんの心配がなくなります。そのため、たとえ1つのPDF内に複数ページがあっても1回のサインで済むのでとても楽になりました。また、英訳したページをすべて印刷し、サイン後にスキャンして元のPDFへの挿入作業が不要になった点も大きな改善点です」(赤井氏)
Box Relayで提出用ファイルを自動整理
さらに機体計画部では、英訳・サイン済みの整備帳票をリース会社へ提出するにあたり、Boxのワークフロー自動化機能「Box Relay」を活用してオペレーションを簡素化しています。通常、Box Signで電子署名を行うと、元ファイルが存在するフォルダ内にサイン済みファイルと自動生成されたログファイルが保存されます。しかし、顧客に提出するのはサイン済みファイルのみであるため、フォルダ内に不要なファイルが残ると移動や削除の作業が発生してしまいます。そこで、元のファイル、サイン済みのファイル、ログファイルがそれぞれ格納されるフォルダを用意し、電子サインを終えると自動的に対象フォルダに振り分ける自動化ワークフローをBox Relayで作成しています。
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具体的には、あらかじめ「サイン前」「サイン後」「ログ」の3種類のフォルダを用意し、担当者が「サイン前」フォルダ内のPDFにBox Signで署名を行うと、Box Relayが自動でファイル名を変更した上で、必要なファイルを対象フォルダに配置する処理を実行します。これにより、以前のようにサイン済みPDFを手動で提出用フォルダへ移す必要がなくなり、「サイン後」フォルダをBox上で共有するだけで、即座に顧客へ提出できるようになりました。
Box Signがもたらした大きな価値
Box Sign導入により、機体計画部では多岐にわたる効果を実感しています。まず、定量的な効果としては、作業に要する時間を大幅に削減できたことが挙げられます。これまではA320シリーズのような短通路機1機あたり約2,100MHRが必要でしたが、Box Sign導入後は約1,200MHRとなり、作業時間をほぼ半減(-43%)させることに成功しました。また、1オーダーあたり1ページの英訳帳票があると仮定した場合(実際には1オーダーあたり複数枚以上あり)、1機あたり4,000枚以上の印刷枚数を削減できました。
定性的な効果としては、PDF化やPDF編集時の紛失リスクや抜け漏れリスクを排除できたことや、印刷や直筆サイン、スキャンが不要になることによる働く場所の自由化(リモートワーク対応可)を実現できたことに大きなメリットを感じています。
「Box Signを導入した背景には、数十機もの航空機のリース返却が控えていたことがあります。従来のオペレーションを続けていた場合、リース返却のピークに対応しきれないことが試算で明らかになっていたため、新たな方法の導入が必要でした。今後控える数十機分の英訳・サイン業務にも耐えられる体制を構築できたことがBox Sign導入の一番の価値です」(保屋野氏)
「航空機のリース返却を終えた後も問い合わせが来ることがあるため、整備帳票は永久的に保管しておく必要があります。Boxは容量無制限であるため、今後それらが積み重なっていったときにストレージの容量制限を気にしてなくてよいこともメリットの1つです」(赤井氏)
Box Signを導入することでプロセスのオンライン化による生産性向上と働き方改革、ペーパーレス化を実現した機体計画部では、機体引渡時に必要な書類へのさらなる活用を今後検討しています。
「航空機のリース返却時には、整備帳票に加えてさまざまな書類を作成して提出する必要があります。これらの書類へのサインは手書きで行っているため、今後はBox Signの活用を検討しています。航空機のリース返却時の整備は、海外の整備工場で行われる場合もあります。その場合でも、書類自体は日本で作成していますが、原本を送ろうとすると運搬や郵送の手間が発生します。しかし、Box Signを使えばこうした手間が不要になり、Boxでの共有やメールなどで電子的にやりとりが可能になるため、業務のさらなる効率化が期待できます」(赤井氏)
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