
国内初「Box Enterprise Advanced」導入事例 - AI x 業務変革の最前線
- 業種:情報通信・IT
- 企業規模:5,001名〜
- 課題:AIの活用
- 課題:業務プロセスの自動化・効率化
- 課題:情報共有の効率化・情報のサイロ化
- 製品名:Enterprise Advanced
- 製品名:Box AI

AIの機能、AIを動かすためのデータ、ワークフローの3要素を統合し、単なる個人の業務効率化ではなく組織全体の生産性向上を実現

AI知識がなくても使える業務特化型エージェントを目指し、報告書作成や契約書情報管理などの具体的な業務課題に対応したAI活用を推進

社内情報をBoxの安全な環境内で処理することで、AIの活用に対する不安を軽減し、セキュリティを確保しながら多様なドキュメントを活用

AIの導入を通じて「やらなくてもいい業務」を見極め、本来人がやるべき価値創造の業務に集中できる環境を整備し、真の業務変革を実現
「Dream up the future.未来創発」を企業理念に掲げ、コンサルティング、金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスなどの事業を展開する野村総合研究所(以下、NRI)。同社はBoxが2025年1月にリリースした新プラン「Box Enterprise Advanced」を国内で初導入し、AI活用を前提としたビジネスや業務の変革に挑んでいる。AIは単なる自動化ではなく、“やらなくてもいい業務”を見極め、本来やるべき業務へ集中するためのツールと捉え活用を推進している同社。本記事では、Enterprise Advancedプラン導入の背景からユースケース、今後の展望までを、IT戦略部およびデジタルワークプレイス事業三部の皆さまにお話を伺った。
AI時代のビジネスと業務変革に向けて
デジタル化の進展により情報量が急増している現代において、効率的なコンテンツ管理やどこからでも安全にアクセスできるファイル保存環境の整備は重要なテーマだ。NRIは、変化し続ける市場に対しても、自社で働く社員向けの施策としてもDX環境の整備を積極的に進めてきた。
「社内に蓄積された知的情報資産を効率的に安全に活用することは、ビジネスにおいても社内の業務効率を向上させる手段としても不可欠な時代です。そこで、私たちは2017年にBoxを導入し、企業間やグループ会社のデータ連携および安心安全な共創環境の実現に向けて有効活用してきました」
そのように話すのは、Box導入初期から運用までを牽引しているIT戦略部長の村田氏。コロナ禍を経てハイブリッドワークやクラウドサービスが普及した現在では、多くの社員がBoxの便利さを実感し、業務の中に自然と溶け込んでいる状態だと言う。そして、次の課題として取り組むのがAIを活用したビジネス変革や業務効率化の推進だ。
「まず自社でAIを活用したくても、その元となるデータが集約されていなかったことが課題としてありました。素材となる情報が社内の各部署にバラバラに存在していて、AIによる分析や活用ができていない状況だったのです。また、仮にデータがあったとしても、AIの使い方がリテラシーの高い個人の業務効率化レベルにとどまっていました。たとえば、ドキュメントの要約やメモ作成といった便利なAIの機能を使っている社員はいますが、1人の業務効率が20%上がったとしても、会社全体の生産性には大きく影響しません。私たちが目指していたのは、AIを業務プロセス全体に組み込み、組織全体で価値を生み出す活用方法です(村田氏)」
部署や個人によるリテラシーの差に加えて、情報セキュリティへの意識もAI活用が進まない一因になっていたとIT戦略部 エキスパート職の青木 優子氏は話す。
「たとえば、生成AIにどこまで社内の情報を出していいのかわからず、不安から利用をためらうケースもあります。AIを自分でコントロールできる、自分の手の内にあると実感できるようになるまでには、少し時間がかかると感じていました」
業務プロセスの改善やAI活用のリテラシーの向上が急務な中、AI利用のキャズムを超えるための施策として期待したのが「Box Enterprise Advanced」だ。
左から デジタルワークプレイス事業三部 大音 優衣様、IT戦略部 エキスパート職 青木 優子様
IT戦略部長 村田 龍俊様、デジタルワークプレイス事業三部 シニアアソシエイト 原田 修平様
AI × データ × ワークフローの“三位一体”が、カギに
もともとBoxの「Enterprise Plus」プランを利用していたNRI。セキュアなドキュメント管理を通じて各事業部の業務特化型AIに進化させる必要性を強く感じていた同社にとって、2025年1月に新しくリリースされたEnterprise Advancedプランの機能拡張には以前から注目していた。そう語るのは、デジタルワークプレイス事業三部シニアアソシエイトの原田 修平氏だ。
「自社の業務課題を明確にした上で、それに応じたAI活用の仕組みを作っていくことが不可欠だと感じていました。その上で、Boxをさらに有効活用するための次のステップとしてEnterprise Advancedプランに注目していました。AIを活用するにも“燃料”や“導線”が必要で、それをどう整備するかという観点でも重要な布石になると捉えました」
また、AIに活用できるコンテンツがBox上に蓄積されることで、セキュリティと利便性の両立が図れる点も導入の後押しになったと言う。AIは一般的にインターネット上にソースがある情報には強いが、企業内情報をベースに業務改善を進めていくには、自社の知的情報資産の整理と利活用が前提になる。その上で、AIを活用して業務変革を実現するには“3つの要素”が揃う必要があると村田氏は話す。
「1つ目はAI機能そのもの。2つ目がAIを動かすためのデータ。そして3つ目が業務プロセス、つまりワークフローです。従来のEnterprise PlusプランではAIとデータまではカバーできていましたが、AIをワークフローにどう組み込むかという観点では、まだ限定的でした。Enterprise Advancedプランでは、ワークフローの部分までしっかり入り込める点が非常に大きな違いです。
他社のSaaSは自身でサービス内に入力したデータの活用が中心ですが、Boxには、WordやPDF、画像、プレゼン資料など、多種多様なドキュメントが蓄積されており、“ドキュメント起点”のAI活用ができるのが、Boxならではの強みだと考えています」
AI × データ × ワークフローという三位一体を実現できるEnterprise Advancedプランの新機能を見て「これはいける」と確信したことが、今回の導入につながった大きな要因だったと語る。
AI知識がなくても使える“業務特化型エージェント”を目指して
NRIでは、膨大なドキュメントが日々生み出されている。株主向け報告書、社内提案書、契約書、ナレッジ資料……。どれも誰かの知見や思考が詰まった、“知的情報資産”だ。
しかしこれまでは、それぞれの文書がバラバラに保管されていて、活用されないまま終わるケースも多くあった。こういった背景があった中で、Enterprise Advancedプランを導入したことで情報の構造化・可視化・再活用が可能になり始めている。
現場におけるAIの活用を推進しているデジタルワークプレイス事業三部 大音 優衣氏や原田氏に、現在の導入初期フェーズにおける同社の活用事例を伺った。
全社のサステナビリティ活動に関する広報資料制作:Box AI Studio
1つ目に紹介する事例は、生成AI活用によるサステナビリティ関連の報告書作成の効率化だ。多くの参考資料やガイドラインをもとに文書を作る業務で、少人数の担当者で対応していたため個々人が大きな負担を抱えており、属人化の課題もあった。そこで、Box AI Studioを導入し、本文の原案作成とグローバルな開示のガイドライン(GRIなど)に合致するようにダブルチェック体制を導入したことで、効率化が進んでいる。
「印象的だったのは、複数のドキュメントをチェックする業務で、AIが人の作業を幅広く支援できるようになってきたことです。この業務は、大量の資料を読み込み、それをもとに1つのドキュメントを作成していくプロセスなのですが、今ではAIがそれを自動的に処理できるようになりつつあります(大音氏)」
「以前は、何度も何度も人の目でチェックしていましたが、それは本当に“やるべきこと”だったのかを考えました。広報の本質は、『何を、どう伝えるか』を企画・設計することです。であれば、チェック作業はAIに任せて、その分、伝え方に頭を使う時間を確保する。そうした“時間の配分の再設計”こそが、働き方の進化に直結します(原田氏)」
契約書登録業務の負担軽減。データの“見える化”から新たな価値創出へ:Box Apps
2つ目の事例は、契約書情報の入力業務。人が手作業で入力するとミスが多く、管理負担も大きい。そこで、AIによってドキュメントからメタデータを自動抽出し、入力の手間とミスを減らすことを目指している。
「今まで契約書情報の登録業務は、PDFで届いた契約書の内容を社内のシステムに手入力していました。しかし、入力ミスが多く、業務負担も大きいという課題がありました。そこで、AIを活用し契約書からメタデータを抽出し、人とAIのダブルチェック体制を取ることで、精度も安心感も両立できるようになってきました。(大音氏)」
「Box Appsは、文書に紐づけたメタデータを抽出・管理・活用することで、より高度なドキュメント活用を実現するものです。これは単なる業務効率化の話ではありません。蓄積されたメタデータを活用することで、契約の進捗傾向や特徴を分析し、隠れたリスクを顕在化させたり、新たなビジネスインサイトを得られる可能性もあります。『この金額帯の案件はどの部署で多いのか』『なぜこの契約だけ大きな金額になったのか』といった、定性的な“気づき”を定量化して見える化する。そんな次のフェーズに向けた動きも、一部で始まりつつあります(原田氏)」
ヘルプデスクの問合せ業務:Box Hubs
Enterprise Plusプランでも利用できるBox AI for Hubsを、ヘルプデスクの問合せ対応などにも活用。Enterprise Plusプランではデフォルトの生成AIモデルを使う形だが、Enterprise Advancedプランではそのモデルを業務特化型にカスタマイズすることが可能になる。これにより、社員からも「Boxって、こんなに使えるんだ!」という驚きの声が上がるようになったと言う。
個別業務に最適化されたAIエージェントを構築する取り組みによって「より深い分析ができる」「業務に特化したアウトプットが得られる」といった価値を、現場のユーザーに具体的に伝えることで、「使えるAI」から「本当に自分たちの業務にフィットするAI」へと、進化させていくフェーズに入ってきた。目指すは、AI知識がなくても使える“業務特化型エージェント”だ。
AI活用を支える、Boxからのサポートや伴走支援
AIを業務に活かすには、“使えるようにする仕組みづくり”も同じくらい重要だ。その点、今回はBox Consultingが初期から伴走し、一緒に考える“共創”の姿勢があったことが大きかったとも話す。
「私自身、当初はAIに関して全くの初心者でした。『この業務課題は、AIではできないのか、それとも私の使い方の問題なのか?』という、漠然とした不安や疑問からのスタートだったのです。でも、Box Consultingのコンサルタントが一緒に課題を整理してくれて、『これはAIで対応できそう』『これは別の方法の方が良いかも』といった道筋を一緒に考えてくれました。まさに“伴走型”の支援でしたね(大音氏)」
「必要に応じて1からAI活用の基礎講座を開いてくれることもありました。1時間程のレクチャーを通じて、私たち自身が『AIとはどういうものか』をチームの共通認識として持てるようになったのは非常に大きかったです。そうした基盤があったからこそ、たとえば『このAPIはこうなっていると思いますが、AIだとどうですか?』といった、社員との具体的で建設的なやりとりが可能になりました。Box Consultingのコンサルタントとは、毎週の定例ミーティングを重ねながら、お互いがフラットに議論できる関係性が築けたと感じています(原田氏)」
社内のAIリテラシー醸成のコツ
AIは万能ではない。しかし、最近では、AIでできること・できないことの線引きが少しずつ社内にも浸透してきており、それに応じた人・AI・システムの役割分担も見え始めていると言う。
「AIに全く詳しくなかった部署の方たちから、『こんなこともできるのでは?』という新しい発想が出てきたことは大きな変化ですね。 一度AIに触れて便利さを実感すると、『あれもできる』『これも試したい』と、彼らの業務知識をベースにしたアイデアが次々と出てくるようになる。これは非常にポジティブな循環だと思っています。
これまで一部の個人が活用していたAIが、より多くの人に開かれ、社内全体に広がっていく兆しが見えてきました。AIを『使える』ではなく『業務に活かせる』と実感してもらえることで、展開が大きく進んでいくと考えています。(原田氏)」
「最初は『AIって、入力すれば答えを全部ポンと出してくれる魔法の箱でしょ?』というような、漠然とした期待を持っている方も多かったと思います。でも実際に触れてみると、『これは得意そう』『これは人の方が向いているかも』と、現場ならではの視点での気づきが生まれています。そうして『これができるなら、あれもできるかも』という発想がどんどん湧いてくる。そのプロセスそのものが、とてもいいなと感じています。
また、リスクやガバナンスの面でも、以前は『AIってなんかわからないから怖い』というイメージが先行していました。Boxの社内に閉じた環境で情報が処理されるので安心ですよと各部門に丁寧に伝えるなど、最初の一歩を後押しすることが、導入成功のカギになるのかなと思います(青木)」
技術と業務の“歯車”が噛み合うとき、変革が生まれる
いろいろな部署で活用事例が少しずつ見えてきて、「私たちでもできるのではないか」という声が自然と出てきている現在。重要なのは、そうした声を拾い上げ、どのように社内に展開していくかが大事なことだと原田氏は語る。
「私たちが担っているのは、AIやBoxを活用する上での技術的な“歯車”を整えること。一方、業務プロセスに関しては、やはり現場の方にしかわからない。だからこそ機能や使い方の情報を提供し、業務側と技術側の“歯車”が噛み合った瞬間に、初めて価値が生まれます。つまり、私たちが行っているのは、噛み合いが起きやすくなるような手段を現場にわかりやすく届け、『これなら自分たちにも使える』と気づくきっかけをつくることなのです」
“本質的に人がやるべきこと”に集中できるようになることこそが、変革の第一歩だと村田氏は話す。「業務の効率化」という言葉は、どうしても“今、行っている作業をどう楽にするか”という発想になりがちだが、本当に重要なのは「そもそも、なぜそれをやっているのか?」「本当にそれは必要な業務なのか?」と問い直すこと。
今回、Enterprise Advancedプランの導入を通して、「やらなければならないこと」が、実は「やらなくてもよいこと」だった、という気づきがいくつもあったと言う。 こうした、一つひとつの業務改善が、やがて大きな改革につながっていくはずだ。