去る2025年5月14日、「Box Caravan in Kyoto」がリーガロイヤルホテル京都にて開催された。これは本年2月のBox Caravan in Shikokuに次いで行われたセミナーで、地域におけるIT活性化を図るものである。当日は西日本地域のユーザー企業が集まり、Boxの最新情報をはじめ、いかにしてBoxを導入したのかなど、その知見が交換される場となった。
まず、開会挨拶に登壇したBox Japan社長執行役員の佐藤範之は、近年、企業において爆発的に増加している非構造化データによって、ファイルのサイロ化現象が起きている問題を指摘。それによって引き起こされる生産性の低下、情報漏洩リスク、ストレージコストの増大といった課題を解決するためのBoxの強みに触れた。ファイル共有とコラボレーションから始まったBoxも、セキュリティ、コンプライアンス、ガバナンスの機能強化を経て、昨年からAIへの投資を集中している。お客様企業がAIを活用し、よりインテリジェントな業務改善や意思決定を実現できるようにBoxは支援していく。「ゴールドラッシュの時のような鉱脈を開発すること自
体ではなく、つるはしを提供するのがわれわれの役割」と表現し、OpenAIをはじめ、Google、Anthropic、IBMなどのAIを利用できる環境を提供していくことが示された。
Boxの最新情報をアップデート
次に、Box Japanのプロダクトマーケティング部 エバンジェリストの浅見顕祐からは「AI時代の今なぜBoxなのか?」「Box AI 情報アップデート」「AIエージェント時代の到来に向けて」の3点を解説した。
企業の情報資産の9割を占める非構造化データをいかに管理・活用するかが課題であり、DXの進展にも関わらず、ファイルは依然として分散状態にあると指摘した。従来の部分最適なツール導入が、全体最適を妨げているという。この状況に対しBoxは、中立的な立場からさまざまな外部システムと連携し、コンテンツを一元管理できる強みを持つ。高度なセキュリティ機能、豊富なAPI、容量無制限のライセンスといった特長も、その強みを支える要因であり、AI活用を促進させるための「Single Source of Truth」を実現するコンテンツプラットフォームであると紹介された。
Boxの最新アップデートでは、AI機能への全面的な注力が図られており、Box AI for Documentsでは要約などがわずか2クリックで実行可能に。新たに登場したBox AI Studioは業務特化型で、法務やセキュリティなどに応じたカスタマイズが可能であるとした。Box AI for Metadataでは契約書から自動的に情報を抽出し、検索性を高めるBox Appsダッシュボードと連携することで、横断的なコンテンツ検索が実現。さらに、ポータル機能Box HubsにAIを活用することで、目的の情報へ迅速にアクセス可能になる。今後はスプレッドシートの自動集計や、機密情報の自動判定機能もリリース予定であることが伝えられた。
AI関連では、AIエージェントは進化し、複数のエージェントが連携して推論や再質問を行い、高度な分析やレポート作成を短時間で実現するマルチエージェントの時代に突入している。ただし、その力を最大限に引き出すには、情報源となるコンテンツの整理・管理が重要となる。BoxはAIエージェントとの連携に必要なコンテンツ管理機能を備え、GoogleやMicrosoftとも連携し、エコシステムの構築を進めている。今
後はBox内でのディープサーチ機能も追加予定であることが示された。
AI関連では、AIエージェントは進化し、複数のエージェントが連携して推論や再質問を行い、高度な分析やレポート作成を短時間で実現するマルチエージェントの時代に突入している。ただし、その力を最大限に引き出すには、情報源となるコンテンツの整理・管理が重要となる。BoxはAIエージェントとの連携に必要なコンテンツ管理機能を備え、GoogleやMicrosoftとも連携し、エコシステムの構築を進めている。今後はBox内でのディープサーチ機能も追加予定であることが示された。
攻めのコンテンツ活用へと変化したワコール
株式会社ワコール IT本部 IT企画開発部 テクノロジー・インフラ担当の大塚正芳様が登壇し、Boxの導入背景から成果までを紹介した。女性用下着を中心に事業を展開するワコールでは、コロナ禍やサイバー攻撃の増加といった外的要因を背景に、IT戦略を刷新。従来のファイルサーバーのサービス終了を契機に、セキュリティや柔軟な働き方に対応するため、Box導入を決定した。
選定の際は、データ保管場所・セキュリティ・運用の簡素化を重視。複数のクラウドサービスを比較し、ユーザビリティと管理機能の優位性からBoxに決定。導入は2年をかけて段階的に進められ、移行テストや教育体制の整備、社内キーパーソンの活用などが成功要因となった。
導入後は、ファイル容量が5倍に、社外共有フォルダ数は8倍に増加するなど、業務のデジタル化が進展。ランサムウェア対策を見越したセキュリティ強化も果たしている。一方で、Box Drive特有の動作やデータ蓄積による課題も残るが、今後は生成AIとの連携による活用拡大を見据えている。
導入を検討する企業には、早期のPoC(概念実証)やネットワーク環境の確認、経営層の理解を得ることが成功のカギであると伝え、ファイルサーバーの保守運用という観点から、コンテンツを活用した攻めのビジネスへと発想が転換していくと締めくくった。
セッション後のQAでは、システム導入の体制や課題への対応について、会場からは熱心な質問が寄せられた。ワコールでは、2~3名の少人数体制で導入を進め、支援企業とも連携しながらプロジェクトを遂行。社内キーパーソンの活用については、全社展開前に個別に丁寧な説明を行ない、不安を取り除きつつ信頼関係を構築したという。また、ExcelやAccessの移行については、既存業務との関係から完全な整理が難しく、ファイルサーバーを用意するなど「力技」で対応した実情も共有された。業務部門と密に連携を図りながら、現場の実態に即した柔軟な対応が印象に残った。
情報管理と業務効率を両立させる日本触媒
株式会社日本触媒 DX推進本部 IT統括部主任の高岩聖悟様は、同社におけるBox導入の背景と具体的な活用事例について講演した。日本触媒は高吸水性樹脂とその原料となるアクリル酸の製造をメインビジネスにしている。高岩様はもともと研究職としてキャリアをスタートし、その後IT部門に異動。研究現場で直面していた「データの置き場がない」という切実な課題が、Box導入の出発点だったと振り返る。
従来のファイルサーバーは容量に限界があり、研究データが増える中で管理が煩雑化。これを受けて、まずは2020年に研究所単位でBoxを試験導入し、徐々に活用を拡大。2023年には全社導入を決定し、ファイルサーバーを原則廃止とする大きな方針転換に踏み切った。Boxを選んだ最大の理由は、容量無制限のストレージとクラウドならではの柔軟なアクセス性であったという。
しかし一方で、クラウド導入に際して懸念されたのがセキュリティ面だった。実際に導入前の研究部門ではランサムウェアによる被害も経験しており、一部データを喪失。この教訓を踏まえ、Boxのバージョン履歴機能やマルウェア拡散防止機能に期待が寄せられた。
さらに高岩様は、情報管理の高度化にも言及。Box Shieldを活用して、機密情報に対し「マル秘」などのラベルを社則に基づき自動・手動で付与し、アクセス権を制御する管理体制を構築しているという。今後はBox AIの導入にも意欲を示しており、社内に点在するノウハウの可視化・再活用を目指している。
Boxを核としたDX推進で成長戦略を支える小野薬品工業
小野薬品工業株式会社 ITインフラストラクチャ&オペレーション部の伊藤耕世様は、自社におけるBoxの活用事例と今後の展望について講演を行った。「グローバルスペシャリティファーマを目指して」を経営戦略に掲げる同社では、柔軟でセキュアなIT基盤の整備が重要視されており、Box導入はその取り組みの一つだと語った。
Box導入前は、社内外での情報共有に多くの手間がかかっていたが、導入後はファイルの一元管理が可能になり、業務の効率化と情報共有の迅速化を実現。社内では全社共有、部署、個人、プロジェクトごとのフォルダを適切な権限で運用し、2年をかけてコンテンツの集約を
完了させた。
さらに、セキュリティ面ではBox Shieldを活用し、マルウェアの検知、不正アクセスの監視、異常行動の監視とコンテンツの分類を実施。特に製薬企業として高いセキュリティ基準が求められる中、さまざまなラベル付けを行うことで、外部コラボレーションに使えるコンテンツとそうでないコンテンツを管理することにひと役買っている。
今後はBox HubsやBox AIを活用し、部門をまたいだ情報共有やナレッジ活用の促進を目指す。特にHubsでは柔軟なアクセス設定とAIによるコンテンツの要約・検索が可能で、業務における情報活用の基盤として期待を寄せている。加えて、さらに高度な機能を提供するBox Enterprise Advancedの導入も検討中であることが示された。
Box運用と生成AI活用の指針が示されたパネルディスカッション
パネルディスカッションでは、小野薬品工業の伊藤様、日本触媒の高岩様、Box Japan専務執行役員CS本部 本部長の西により、Box導入後の運用や生成AI活用に関する取り組みについて話し合った。
小野薬品工業の伊藤様は、汎用型と特化型の両方の生成AIを導入しているという。全社員が日常的に使用するBox上で稼働するBox AIは汎用型として提供され、日常業務で幅広く活用されている。一方、特化型のAIツールは、利用者が必要に応じて自ら活用できるよう整備されている。
日本触媒の高岩様も、Box AIとCopilotを全社員向けに提供し、AI活用を進めている。Box AIでは主に文書要約や翻訳、CopilotではPythonコードの生成などを実施している。
両社とも、AI導入におけるスピードとデータ品質の重要性を指摘。小野薬品工業は3億コンテンツを管理しており、Box Governanceを活用してアクティブ・非アクティブの分類を進め、AIの精度向上を図っている。
また、情報コンタミネーションの観点から、ラベル付けの運用についても議論が交わされ、小野薬品工業は特定フォルダへの格納で自動付与、日本触媒は全社的に「秘」ラベルを強制適用するなど、ユーザーの手間を軽減しつつ管理を徹底していた。
両社とも、今後もAIとデータ管理の高度化を進め、より安全かつ有効な業務活用を目指す姿勢を示した。
すべてのセッションののちに行なわれた懇親会では、ご登壇いただいたワコール大塚様、日本触媒高岩様、小野薬品工業伊藤様に対してさらなる質問が寄せられた。また「導入・社内推進のヒント」「活用・展開の壁を越えるヒント」といったテーマ別の円卓では、共通の関心を持つ参加者が、自身の取り組みや課題をもとに活発に語り合った。実務に即した話題が次々と広がり、参加者同士の情報交換や交流が深まった一夜となった。

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