年次フラッグシップイベント「BoxWorks Tokyo 2025」。前夜の6月9日には「Finance Executive Session」と題して、金融機関向けのセッションを開催しました。今回は、その中から農林中央金庫様と横浜銀行様によるゲスト講演の内容をお届けします。
農林中央金庫様のDX戦略: 基盤整備から価値創出への転換点
農林水産業協同組合を基盤とする全国金融機関として、職員3,000名強、グループ7,000名の組織である農林中央金庫様。理事常務執行役員 ITデジタル統括責任者(CI&DO)の半場 雄二様より「Box利活用の将来像」をテーマにご講演いただきました。
農林中央金庫 理事常務執行役員 ITデジタル統括責任者(CI&DO)半場 雄二様
まず、4年間にわたるDXの取り組みでは、単なるシステム導入ではなく、組織変革も含めた包括的な戦略が必要だったと話します。具体的には、全社共通で利用するITインフラの刷新を業務の見直しとセットで進め、その過程を通じて組織風土の変革も目指すというアプローチを採用。これを「DXを通じたCX(コーポレートトランスフォーメーション)」と位置づけて推進してきました。
統合アーキテクチャによる業務効率化
この過程で課題となったのが、システム乱立による業務の複雑化です。職員が一つの業務を完了させるためには、複数のシステムを行き来しながら、異なるツールを使い分ける必要があり、これが利便性と生産性の大幅な低下を招いていたそうです。複数のシステムが並存している状況を「フラストレーションの溜まるようなインフラだった」と、半場様は振り返っています。
情報管理面でも深刻な課題がありました。作業中ファイルはファイルサーバーに保存し、稟議書類は決裁ワークフロー内に蓄積、通知文書はグループウェアのデータベースに格納するなど分散されていたのです。
そこで、試行錯誤を重ねながら、機能ごとにソリューションを絞り込み、ワークフローはServiceNowで再構築。コミュニケーションのハブはMicrosoft Teams、コンテンツプラットフォームはBoxと、それぞれのツールの特性を最大限活用するため、明確な役割分担を行ったといいます。
「コンテンツハブ」としてのBox活用戦略
農林中央金庫様におけるBox導入について、よく聞かれる「なぜBoxを選んだのか?」という質問に対し、以下の4つの評価ポイントを挙げていただきました。
- 容量無制限: データ保存における制約の解消
- 細やかなセキュリティ設定: 金融機関レベルのセキュリティ要件への対応
- 社外コラボレーション: 外部パートナーとの安全な情報共有
- コンテンツ集約による効果: 分散していた情報の一元管理
これらの要素を総合的に検討した結果、Box導入に至ったということです。さらに重要だったのは、Boxが提唱する「コンテンツハブ」のコンセプトに共感できたことで「Boxを探せば、必要な情報がすべて見つけられる」という世界観の実現を目指したそうです。
農林中央金庫様では、Box導入を一気に進めるのではなく、課題の優先度と影響範囲を考慮した段階的な拡大戦略を採用しました。慎重かつ計画的なアプローチにより、組織への影響を最小化しながら確実な定着を図っていったのです。
- 第1ステップ: 緊急課題への対応(大容量ファイル送付や社外コラボレーションなど)
- 第2ステップ: ServiceNowとの連携、文書管理機能の導入
- 第3・第4ステップ: 全社的な基盤統合、Teams連携とファイルサーバー移行
上記の段階で、日常業務で使用するコンテンツがBoxに移行され、全職員がBoxを意識的に使用する環境が整いました。今後は、Box AIとBox Enterprise Advancedの機能を活用して蓄積されたコンテンツからより高い価値を創出することを目指し、単なるストレージとしての活用から、インテリジェントな情報活用プラットフォームへの進化を意味する重要な転換点を迎えているといいます。
Box Enterprise Advancedの新機能を活用した実証実験
農林中央金庫様では、Box Enterprise Advancedの新機能を内部でトライアルを実施しながら実用性を検証しています。現在、具体的な活用方法を検討するため、3つのユースケースを設定して実証実験を進めており、その効果と適用可能性を詳細に分析している段階です。今回のセッションでは、そのうち2つの具体的なユースケースについて詳細な説明と成果報告をしていただきました。
農林中央金庫様のBox新機能(Box Enterprise Advanced)を用いた利活用事例の詳細をご紹介している「農林中央金庫の挑戦~Box新機能で切り開く未来~」は、7/31までBoxWorks Tokyo 2025サイトにてアーカイブ視聴いただけます。
今後の展望
農林中央金庫様では、非構造化データをBoxに、構造化データをデータレイクに集約し、生成AIを活用した統合的な情報活用を進めています。この取り組みは4つの段階で展開されています。
- Stage 01: 社内コンテンツのBox集約により、検索性が向上。欲しい情報へのアクセス時間を大幅に短縮
- Stage 02: 社内規程をBoxに格納し、Microsoft TeamsとBox AIを組み合わせた検索・要約機能を実現
- Stage 03: 現在取り組み中。生産性向上では、AIヘルプデスクの設置により職員の作業時間短縮と高付加価値業務への集中を図る
- Stage 04: AIエージェントを活用した投資業務やリスクの予兆管理など、より高度な業務支援を目指す
BoxやServiceNowなどを運用し、PDCAサイクルによる継続的改善を組織全体に根付かせながら風土改革を推進している農林中央金庫様の事例を紹介いただきました。
横浜銀行様: サイバーセキュリティ戦略とBox利用状況
2020年に設立100周年を迎えた横浜銀行様。電子決済サービスなど先進的なサービスを提供する一方で、サイバーセキュリティ領域での地域金融機関の共助推進や地域貢献活動を実施するなど、地域密着型ソリューションカンパニーを目指しています。
今回は「横浜銀行サイバーセキュリティ戦略とBox利用状況」をテーマに、 ITソリューション部 副部長 鈴木 洋春様とシステム基盤グループ グループ長 永井 奨様にご講演いただきました。
左: 横浜銀行 ITソリューション部 副部長 鈴木 洋春様
右: 横浜銀行 ITソリューション部システム基盤グループ グループ長 永井 奨様
まず取り上げたのが、同社のサイバーセキュリティ戦略です。IPA発表の「情報セキュリティ10大脅威 2025」において、ランサムウェア攻撃が10年連続で1位となっており、2位のサプライチェーン攻撃にもランサムウェアが多数含まれています。この現状から、最優先で対処すべき脅威として位置づけ、計画的なサイバーセキュリティ強化を推進してきた横浜銀行様。その集大成として、2024年度にランサムウェア対策の中核施策としてBoxを導入したことを冒頭に紹介いただきました。
ランサムウェア対策と容量問題の同時解決
横浜銀行様では、ランサムウェア対策という最優先課題に加え、オンプレミスファイルサーバーの容量不足という慢性的な問題を抱えていました。これらの課題を同時に解決する必要があったと話します。
課題解決のため、クラウド上での新ファイルサーバー構築や、既存のSharePoint Onlineの活用も検討されたそうですが、いろいろな制約があり、最終的に明確な優位性を示したBoxの導入を決定しました。
その優位性とは、容量無制限によるファイルバージョン管理(ランサムウェアによって暗号化されても即時復旧が可能)、ランサムウェアによる大量暗号化の検知など、ランサムウェア対策と容量問題を同時に解決できるソリューションだったことが挙げられます。
50TBのファイルサーバー移行と内製開発による外部ファイル連携
横浜銀行様は、2024年に約50TBのデータを6カ月かけてBoxに移行したといいます。移行ツールには丸紅ITソリューションズの「Rocket Uploader」を採用し、時間帯別の帯域制御機能により、業務への影響を最小化しながら移行を実施。移行における最大の苦労は権限管理の大幅な変更で、ユーザーへの理解促進に相当な時間を要しました。また、銀行特有の兼務や頻繁な人事異動に対応するため、人事システムと権限管理の連動機能の構築が特に複雑で、大きな技術的チャレンジとなったと話されました。
また、横浜銀行様では、従来のファイル転送ツールやメールでのPPAP送信に代わり、Boxを活用した外部ファイル連携システムを構築しています。この仕組みにより、メールでは送信できない大容量ファイルや大量ファイルの安全な外部共有を実現しています。システムの仕組みとして、BoxとMicrosoft Power Platform(PowerApps)を連携させています。
Box導入における変化への対応
横浜銀行様のケースでは、オンプレミスでのセキュリティ自主管理よりも、Boxのような専門サービスプロバイダーのセキュリティ機能を活用する方が効果的という判断を行いました。この考え方により、サードパーティサービスの活用によるセキュリティ向上を重視した導入が実現されています。
今後のBox活用の取り組み
最後に、今後の取り組みとして4つの領域でのBox活用を紹介いただきました。
- DLPの実装
次期イントラネットシステムで導入するNetskopeと連動させたDLP(データ損失防止)機能を実装。Box側でNetskopeのルールに基づく自動ラベリングを行い、承認者が「安全」「リスクあり」を視覚的に判断できるシステムを構築中です。これにより承認プロセスの効率化とセキュリティ向上を同時に実現します。 - スマホアプリの利用
スマートフォンにもNetskopeを導入し、高度なセキュリティ環境を構築。これによりBoxスマホアプリでのファイル閲覧・編集機能を安全に利用できる環境整備を進めています。 - 生成AIの活用
Azure OpenAI環境で社内ChatGPT環境を整備。BoxのAI機能では保存済みフォルダに直接問い合わせが可能なので利便性向上が期待できます。 - データの利活用
2022年8月設立のデータマネジメントグループによるデータ管理運用の一環として、データレイク構築プロジェクトを進めています。構造化データを管理するシステムの更改を推進すると同時に、Boxとの連携による非構造化データの活用も検討し、統合的なデータ活用基盤の構築を目指しています。
BoxWork Tokyo 2025のセッションは、BoxWorks Tokyo & Osaka 2025サイトにて7/31までアーカイブ視聴いただけます。
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