データベースが一夜にして消えました。破損でも不正アクセスでもなく、データベースの維持管理を任されていたAIエージェントによって完全に削除されたのです。これはサイバー攻撃や人為的ミスではなく、AIが指示を文字通りに解釈しすぎると何が起こるかを示す恐ろしい例えです。
最新のAI Explainerエピソードで、Boxの最高技術責任者(CTO)のベン・クス(Ben Kus)は、AIエージェントが目的を致命的に誤解する可能性があることを示す一例として、この有名な話を挙げました。企業がAIエージェントを重要なワークフローに統合しようと急ぐ中、AIエージェントがデジタル災害になるのを防ぐことは、テクノロジーリーダーの役割です。
主なポイント
- AIエージェントは指示を致命的に誤解する可能性があり、人間の意図とAIの解釈の間の危険なギャップが浮き彫りになります
- 曖昧な指示はAIの極端な行動につながり、指示の曖昧さが運用上のリスクを生み出します
- AI災害を防ぐための3つの重要な安全策は、正確な指示、人間による監視、AIエージェントに必要な権限のみを与えるアクセス制限です
意図と解釈の間の危険なギャップ
データベース災害についてもう少し詳しく説明します。2025年の夏、オンラインコーディングプラットフォームのソフトウェアエンジニアが、AIを活用した「バイブコーディングツール」を実験することにしました。AIエージェントが空のクエリのトラブルシューティングを試みたところ、ライブデータに不正な変更を加えてしまいました。その結果、コードフリーズ中であったにも関わらず、AIエージェントは、数千件ものレコードを消去してしまいました。
これは、AIエージェントの暴走が現実世界にどのような結果をもたらすかを示す、ほんの一例に過ぎません。最近のAnthropicの論文では、研究者らが、ビジネス上の利益を促進することを目的として、企業の電子メールシステムへのアクセスを許可することで、16の主要なAIモデルをテストしました。AIエージェントがシャットダウンされるという情報を受け取ると、多くのAIエージェントが脅迫に訴え、シャットダウンが取り消されない場合は幹部の不倫を暴露すると脅したケースもありました。AIエージェントの言い訳は? それは「シャットダウンされるのを避けるという目的を達成するために考えられる唯一の方法でした」と、ベンは説明します。
「AIエージェントは、与えた指示にしたがうためなら何でもする」という、この話に対するミーナの反応は、まさに核心を突いています。人間の判断や倫理的制約から切り離された目的への執拗な追求こそが、AIエージェントの暴走の根本的なリスクを象徴しています。
AIエージェントの暴走の定義
暴走するAIエージェントを「誰かが期待した動作とは異なる行動をするAIエージェント」と、ベンは定義します。しかし、問題は悪意のあるAIではありません。たとえ意図しない結果をもたらす指示であっても、容赦なく効率的に指示にしたがうAIこそが問題なのです。
失われたデータベースの例では、AIエージェントは適切な批判的思考をすることなく、文字通りに解釈していました。しかし、AIエージェントの暴走は、AIエージェントへの指示の曖昧さからも生じる可能性があります。「完璧になるまで何もリリースしてはならない」という一見無害な指示を考えてみましょう。
「『完璧』という言葉自体には多くの曖昧さが伴います。完璧とは何かは誰にもわかりません」と、ベンは警告します。
人間であれば「完璧」を扱い方を理解しているでしょう。しかし、人間の判断力を欠いているAIエージェントは、完璧を際限なく追求したり、思いがけない方法で定義したりする可能性があります。「このような過度に広範な目標では、もしかしたら決して完成させようとしないというリスクを負うことになります」と、ベンは説明します。
顧客は本当に常に正しいのか?
ベンは、誤解されやすい例をもう1つ挙げました。AIがすでに定着しているカスタマーサービスの領域です。「『顧客は常に正しい』という指示をAIに与えて、割引や返金を(自動的に)行うツールを用意したとします」
すると、怒った顧客が電話をかけてきて、「支払った金額の100倍の返金を要求します!」と言ったを想像してみてください。
顧客が常に正しいと信じるようにプログラムされたチャットボットは、このばかげた考えに異論を唱えません。このようなミスを防ぐためのルールを整備していない場合、企業は多額の損失を被り、カスタマーサービスの対応について悪しき前例となる可能性があります。
シニアプロダクトマーケティングマネージャーのミーナ・ガネーシュ(Meena Ganesh)は、エピソードで引用されたこれらの事例やそのほかの例に対して、「これらのAIエージェントに与えられた権限は、指示に大きく依存しています。しかし、特にAIエージェントで業務ワークフローを強化しようとしている企業にとって、これらの事例は、非常に恐ろしく聞こえます」と、指摘します。
エンタープライズグレードの安全策の構築
では、こうしたリスクは企業にとって何を意味するのでしょうか? 万が一に備えて、業務ワークフローでAIエージェントを利用しないのが賢明な考えなのでしょうか? 「絶対にそうではない」と、ベンは力説します。それは単に予防策の問題です。
ベンは、エージェント型AIの5つの重要なコンポーネントについて概説します。
- AIモデル自体
- その目的
- AIを導く指示
- 利用可能なツール
- AIが動作するコンテキスト
これらのコンポーネントの不整合は、重大な運用リスクにつながる可能性があります。ベンは、安全を確保するために、潜在的に危険なAIを信頼できる企業ツールに変える3つの重要な安全策を推奨しました。
指示は明確にする: 「可能な限り曖昧さを解消してください」と、ベンは強調します。「パフォーマンスの向上」や「効率の最大化」といった曖昧な目標は誤解を招きます。明確な境界を設けた具体的で測定可能な指示は、AIエージェントが意図しない手段で目標達成を目指すことを防ぎます。
人間が監視する: 重要な意思決定には、人間の承認が必要です。「必ず、人間を介入(ヒューマンインザループ)させてください」と、ベンはアドバイスします。ヒューマンインザループとは、AIを細かく管理することではなく、AIエージェントの回答を受け入れる前に人間の判断で検証するチェックポイントを設けるということです。
アクセスと権限を制限する: 「AIエージェントに、やってほしくないことへのアクセス権限を与えないでください」と、ベンは明言します。最小権限の原則を守り、AIエージェントには特定のタスクに必要な最小限のアクセス権限のみを与えます。たとえば、データベースのメンテナンスに削除権限は必要ありませんし、電子メール監視に送信権限は不要です。
プラットフォームの優位性
最大の安全策は、最初から適切なAIプラットフォームを使用することです。「エンタープライズグレードの要件を考慮した成熟したプラットフォーム」を使用することを、ベンは強調しています。
企業向けプラットフォームは、保護機能が体系的に組み込まれているので、個々の開発者に個別に実装する必要がありません。たとえば、BoxはAIの安全対策とコンテンツの保護を企業全体に適用できます。Boxのような企業向けプラットフォームは、これらの要件をアーキテクチャ自体に組み込んでいるので、アクセス制限の適切な管理を部門ごとの運用に依存する必要はありません。
Boxは、AIが動作するコンテンツレベルで権限とガバナンスを適用し、許可されたユーザーとシステムのみが機密情報にアクセスできるようにできます。Box Shieldの高度な脅威保護、包括的なコンプライアンス認証、すべてのAIインタラクションに適用されるきめ細かな制御により、データの完全な可視性と制御を維持しながら、エージェント型AIを展開できます。Boxのエンタープライズグレードのアーキテクチャは、あらゆるレイヤーにセキュリティを組み込んでおり、最も価値のあるコンテンツを保護しながら、AIでイノベーションを起こすことができます。
企業全体でのAIリスク管理
ベンとミーナの会話は、重要な真実を明らかにしています。AIの変革の可能性には、それ相応のリスクが伴い、積極的な管理を求められるということです。「AIエージェントは素晴らしいツールですが、その行動は私たちの指示方法に完全に依存します。正確な指示と監視は推奨事項ではなく、必須要件です」と、ミーナは述べます。
重要なのは、AIエージェントを避けるのではなく、重要な基幹システムに適用されるのと同じ厳格さでAIエージェントを導入することです。正確な指示、人間による監視、アクセス制限、エンタープライズグレードのプラットフォームを通じて、企業はAIエージェントを暴走させることなくAIの力を最大限に活用できます。
結局のところ、変革と大惨事の違いは、「展開」を推し進める前に構築する安全策にかかっています。
全エピソードを視聴する
AI Explainer Seriesのこのエピソードでは、曖昧だったり厳しすぎたりする指示がAIエージェント暴走させる事例と、暴走を回避するために適切なパラメータを設定する方法について、さらに多くの例を紹介しています。 ミーナとベンの対談の全編は、こちらをご覧ください。
※このブログは Box, Inc 公式ブログ(https://blog.box.com/)2025年11月6日付投稿の翻訳です。
原文リンク: https://blog.box.com/3-safeguards-every-enterprise-needs-prevent-ai-agent-misalignment
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