日本の国土面積は全世界の0.28%しかありません。ところが、世界で起こったマグニチュード6以上の地震の20.5%がここ日本で起きています。さらに、世界の活火山の7%が日本に集中しており、世界の災害で受けた被害金額の11.9%が日本の被害金額です。このデータからも分かるように、日本は他国に類を見ないほどの災害大国なのです。
出典:国土技術研究センター『自然災害の多い国 日本』
このような背景から、日本国内を中心にビジネスを展開する企業は、有事に備えて準備をしておく、つまりBCPが必要ということになります。BCPとは「Business Continuity Plan」の略で日本語では、「事業継続計画」と訳されます。BCPは自然災害等が発生した際の有事に備えて、事業を素早く復旧するまでの計画や、従業員の安否確認及び安全確保などを目的とした取り組みの1つです。
このブログでは、初めてBCP対策について考える方に向けて、知っておきたいポイントをいくつかご紹介します。
BCPを策定する理由
実際にBCPが策定されていることでどのような効果を発揮するのでしょうか?災害が多い日本で特に考えるべきポイントをご紹介します。
被災時の事業復旧が早くなる
企業が持つ工場やデータセンターが被災すると、仕事で利用している機械設備やIT機器、データ等が破損や消失する可能性があります。特に、マグニチュード7以上の大地震が発生すれば、それらが破損しても何らおかしくない規模の大災害に発展します。
もしも工場が被災したら?データセンターが被災したら?それによって機械設備やIT機器が故障したら?事業復旧は困難ですし、経営が傾く可能性もあります。そうした有事の際でも素早く事業を復旧するために、さまざまな計画やシナリオを用意しておくのがBCPの本質です。
従業員の安全確保になる
従業員は企業にとって大切なリソースであると同時に、保護すべき尊い命です。企業は責任をもって従業員をその家族の安否を確認し、安全を確保する義務があります。BCPではその一環として従業員の安全確保を実施します。それが従業員のためになりますし、ひいては企業のためになります。
また、事業復旧を素早く行えるということは従業員の雇用を守ることにも繋がります。自然災害が発生した際は綺麗ごとなど必要なく、必要なのはお金や食料です。それらを安定的に従業員に供給するためにも、BCPが欠かせません。
取引先から信用される
2011年に発生した東日本大震災では、被災地に大手メーカーの主要工場が集中していたこともあり、多くの企業で操業がストップし、その影響が波紋のように広がりました。国内自動車メーカーにて全工場の生産が再開されたのが1か月以上経過した4月18日でした。その結果、トヨタ自動車では3月の国内生産台数が前年同月比62.7%減と金融危機を上回る過去最大の落ち込みとなったほどです。
自社工場などが被災すれば、その影響は取引先にも及びます。取引先もそのことを重々承知しているので、企業評価にBCPを要件としているところも多いのです。つまり、BCPを策定している企業は取引先から信用される傾向にあります。
出典:東洋経済オンライン『東日本大震災であらわ、自動車メーカーが直面したサプライチェーンのわな』
地域貢献・社会貢献になる
素早く事業を復旧することは、地域貢献や社会貢献にもつながります。被災地となった場所の企業が軒並み操業停止に陥れば、自治体に与える影響も甚大です。地域が活性化しないと被災の傷跡からの立ち直りが遅くなりますので、地域や社会に貢献する意味でもBCPは欠かせません。
企業のブランド価値が高まる
BCPを策定していること自体が企業のブランド価値を高める要素になります。2016年4月に発生した熊本地震では、東日本大震災を教訓にBCPを策定していた企業も多く、震災直後の復旧がスピーディに行われ、他企業からの信頼が厚くなり、企業のブランド価値が向上したと感じる企業も多かったそうです。
以上5つの理由は、現代企業にとってとても大切な要素です。BCPを策定することは有事の際の復旧を早めるだけでなく、日常のビジネスにも強く影響を与えることになるでしょう。
BCP策定のポイント
それでは、BCPを策定する上で重要なポイントをご紹介します。
1. 基本方針の策定
自社が被災する可能性のある自然災害や火災の可能性、その他の細かいリスクを調査、把握、リストアップし、それらが発生した際の影響度や発生確率などを踏まえて、BCPの対象とする自然災害や事故等を絞り込んでいきます。多くの企業はやはり、地震や水害などの自然災害を警戒しており、それを中心にBCPを策定するのが一般的です。基本方針を作成すると同時に、BCPのプロジェクトチームを編成して進める方法もあります。
2. 中核事業(復旧優先事業)の選定
企業のビジネスにおける中核をなしている事業は何か?を十分に検討した上で、非常事態時において復旧を優先すべき事業を選びます。一般的には、利益に最も貢献している事業や、操業停止によって企業に及ぼす影響が最も大きい事業、市場シェアを維持するのに重要な事業などを選ぶことになるでしょう。
復旧優先事業を選んだら、当該事業の復旧に必要なリソース(人・モノ・カネ・情報・サービス・設備)を考え、それらのリソースを素早く調達するための計画を立てます。
3. ビジネス影響度分析
想定したリスクが実際に起きた場合、事業がどのような影響を受けるかシミュレーションを行いましょう。その上で、組織の経営活動を復旧するために優先的に実施すべき重要な業務を特定していきます。これがビジネス影響度分析です。
具体的な内容は、売上・利益・信用・雇用・法令・コストなど複数の視点から影響度を測定した上で、RTO(Recovery Time Objective:目標復旧時間)を決定し、事業復旧に重要な業務を洗い出します。
4. 事前対策
有事の際に、復旧優先事業に必要なリソースが使用できなかった場合を考慮して、臨時の従業員や資金、情報資産のバックアップなど代替を確保する手段を確立しておくことが事前対策です。
事前対策を実施しているか否かで、事業復旧のスピードは大きく異なります。さらに情報資産の保護においては、BCP対策が施されたデータセンターやクラウドサービスを選定しておくことで被害を最小化することが可能になります。既存施設の耐震強化や従業員の連絡網作成など、あらゆる事前対策を実施するのがポイントです。
5. BCP策定
どのような出来事が起こればBCPを発令するのか?その基準を明確にした上で、発令時の体制も明確にしておきます。さらに、BCPは1度策定して終わりではなく、ビジネスの現状に応じて適宜修正を加えたり、情報を最新の状態に維持したりする必要があります。定期的なチェックを実施して、継続的に改善していきましょう。
以上のポイントを意識しつつBCPを策定すれば、ひとまず正確なBCPが完成します。皆さんもこの機会に、あらゆるリスクを想定してBCP策定やレビューを実施してみてはいかがでしょうか?
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