BoxWorks Tokyo 2025の1日目の午後は、ユーザー企業様のBox活用事例や働き方の未来を考えるセッションなど35を超えるプログラムを開催。その中でも他セッションとは趣の異なる「ジェンダーギャップの“今”と“これから” 〜テック業界で私たちが切り拓く新しい未来〜」をピックアップしました。
昨今話題の、DE&I。Diversity(ダイバーシティ:多様性)、Equity(エクイティ:公平性)、Inclusion(インクルージョン:包容性)の略で、組織における重要なキーワードになっているこのテーマを、テック業界の事例を中心に話し合いました。
ゲストには、サイバーエージェントでTech DE&I Leadを務める神谷 優氏、アサヒビジネスソリューションズの笹沼 康子氏を迎え、お二人のこれまでの経験談や企業での取り組みをもとに議論した内容をお伝えします。
左から: 株式会社Box Japan ソリューションエンジニア 生田 奈津子、株式会社サイバーエージェント Tech DE&I Lead 神谷 優氏、
アサヒビジネスソリューションズ株式会社 ソリューション第3本部 デジタルイノベーション&アーキテクチャ部 笹沼 康子氏
本セッション開催のきっかけとなった気づき
世界経済フォーラムが発表した2024年のジェンダーギャップ指数では、日本は146カ国中118位。特に経済分野における男女格差は低水準の状態から脱却できていないという現状があります。
笹沼氏は冒頭、このセッションの開催こそがDE&Iを日本に根付かせることにつながってほしいと話しました。「2024年の11月に、アメリカのサンフランシスコで開催されたBoxWorksに初めて参加しました。その際、各セッションで女性の登壇者がとても多いことが印象的でした。しかし、イベント終了後のジャパンサミットにユーザー企業として呼ばれた際は、10名弱の参加者の中で女性は私一人だったのです。その時にで、『来年のBoxWorksでは、この景色を変えたい』と一言述べたことがきっかけで、本日こちらでお話しする機会が生まれました」
実際、日本では女性の就業比率は45.5%と高くなっていますが、情報サービス産業に限ってみると、女性従業員比率は24.3%、ITエンジニアの女性比率は21%という数字が出ています(引用: 一般社団法人情報サービス産業協会「2024年度版情報サービス産業 基本統計調査」)。では、そのジェンダーギャップを解消するために、どんなことが他にできるのか。社内でTech DE&Iのプロジェクトを立ち上げた神谷氏は、次のように話します。
「サイバーエージェントは企業全体で見ると、だいぶ前から女性活躍施策を推進し女性管理職比率も問題ない数字ですが、エンジニアがいる開発部門で見ると弊社も例外なく、かなり偏った状況にありました。また、私自身も出産や育児休暇を経て開発のチームに戻った際には、1年ほどのブランクがある中で今後もエンジニアの最前線でやっていけるのだろうか……といった想いを抱きました。そういった背景や私自身の経験もあって、2023年1月に技術担当役員直下のTech DE&Iプロジェクトを立ち上げました」
株式会社サイバーエージェント Tech DE&I Lead 神谷 優氏
このプロジェクトは、3つのワーキンググループという形を取って推進しているということで、神谷氏に概要を説明いただきました。
1. Community
シャッフルランチやミートアップなどを行い女性のロールモデルを可視化し、出産育児などのライフイベントを迎える前後の女性エンジニアのコミュニケーションが生まれる場に。また対外的にも、女性エンジニア向け技術カンファレンス「Woman Tech Terrace」の開催、女性向けインターンシップ「Woman Go College」を実施
2. Resource
主にDE&Iの啓蒙や教育活動。社内にポータルサイトを開設しリソースを蓄積したり、ジェンダーギャップ勉強会を開催。最近ではエンジニアのマネージャー層向けにDE&I研修も実施
3. Paper
論文の執筆や調査研究など、エビデンスに基づく施策立案を実施
この3本の柱をもとに、Woman Tech Terraceを4回開催。ジェンダーギャップ勉強会にはエンジニアの参加が1,000人を超えるなど、企業のさらなる成長に向けて多様性のある開発組織の構築が行われているそうです。
制度では埋まらない壁と、現場のひっかかり
DE&Iの活動をする上でつまずきやすいポイントとして、「サイバーエージェントのTech DE&Iのプロジェクトは技術担当役員直下で行っており、このトップダウンの体制だからこそ活動に推進力が出た」と、神谷氏は経営層の理解の重要性を話します。
社員から声をあげてボトムアップで行うのが難しい理由は、DE&Iがどう企業の成長に結びつくのかが明確に認識されていなかったり、ジェンダーギャップそのものの認識や理解が希薄だったりするからとも付け加えました。同時に、組織の制度が整っていても、実際には社員が利用しづらかったり、ひっかかりを覚える部分もあります。その点、笹沼氏は実体験から次のように話しました。
「冒頭で触れた海外カンファレンスへの参加に際し、私自身は以前から海外出張には行きたいと思っていました。しかし、なかなか実現しなかったので、どうして行けなかったのかと考えると、子どもがまだ小さいので、そういった機会への参加に『声をかける対象から外れていたのでは』と気づきました。この場合、皆さんに悪気があったわけではなく、むしろ良い意味での配慮を無意識に行っていた結果かなと感じました」
無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)については、神谷氏も同様に意見を述べました。
「弊社もメルカリ社が無償で公開している無意識のバイアスに関する研修を取り入れています。その中で、笹沼さんが例に出されていたのは、『男性が外で働き、女性は家を守るもの』という思い込みである家庭内性別役割バイアスかなと思います。研修でも、やはり上長が出張を打診するときに、お子さんが生まれたばかりの女性には声をかけづらいという説明がなされていました。逆に男性も、本人が望んでいなくても男性というだけで出張の打診が多く来るというケースも紹介されており、性別に限らず本人の意見を聞くというのが大事なのではと思います」
国内でも海外でも、出張を打診されたときにビジネスの世界ではスピードが求められます。しかし、家庭の事情を考慮し「その時期は子どもの春休みだな」「月曜日と火曜日は難しい」などの懸念が一瞬で頭を駆け巡り、その間に同僚の男性社員が「私、行きます」と言って「じゃあ、よろしく」という場面を何度も経験したと、笹沼氏は話します。
アサヒビジネスソリューションズ株式会社 ソリューション第3本部 デジタルイノベーション&アーキテクチャ部 笹沼 康子氏
「行けるかわからないけど、行きたいですと無責任に手を挙げられない気持ちもありました。もしそういう機会があれば、『回答は3日後でいい』とか、『1週間後でいいから、行けるかどうか考えてくれないか』といった時間的な配慮があると、とてもありがたいです。そうすれば、『ちょっと調整してみます』という猶予をいただけるので」
その点、マネジメントをする立場の人が、部下に対してどういうアクションを心掛けるといいかを神谷氏は次のように話しました。
「女性は自信を持って手を挙げられないという性差があると、Facebook社COOのシェリル・サンドバーグ氏の著書『LEAN IN』に書いてあります。なので、昇格の打診は3回するということが推奨されていました。登壇の打診なども同様で、優秀な女性エンジニアがいて活躍していても、なかなか自分からは手を挙げられない。でも、『対外的に発表できる貴重な知見をお持ちですから、どうですか?』と何度も声をかけると登壇してくれることがあります。変な遠慮で終わらせず、行動する・言語化する・周囲に共有する……そういうことがすごく大事なのです」
上司が、本日のセッションで取り上げた無意識バイアスという言葉を認識しているだけでも、結果は大きく変わるのではないでしょうか。
明日から何ができる?
最後に、このセッションを経て明日から何ができるかを議論しました。笹沼氏は出張などを打診する際に、参加資格が3人分ある場合、1人は必ず女性に声をかける、返事は即答を求めず回答期限に余裕を持たせるといった雰囲気作りが大事だと繰り返し述べました。
「アメリカで開催されたBoxWorksのディナー会にて、女性の参加者が少ない景色を変えたかったと冒頭に触れました。そして、日本に帰国して会社に伝えたところ、その宣言が今日のこの場で講演することに繋がったのです。だから、ご自身が今感じていることを声に出して伝えてみることも大事なのかなと感じます」
男性の方とDE&Iについてお話しすると「私たちは何をしたらいいですか?」とよく聞かれるという神谷氏。そう思っていただけるだけでもすごく嬉しいことだと話し、最後に小さなアクションの重要性を説きました。
「例えば、女性エンジニアがカンファレンスなどで登壇された際、SNSでいいねやリツイートをしてくれるだけでも、その行動は反対ではないという姿勢が伝わります。DE&Iの活動やジェンダーギャップの解消は当事者だけでは難しく、マジョリティーの巻き込みがとても大事だからです。私自身も、最初は全社勉強会を開くのが怖かったのですが、蓋を開けてみると温かい声が本当に多く寄せられ、とても安心感を覚えました。だから、女性が何かに取り組むときに、ちょっとしたアクションを返してくれるだけでも、当事者からすると嬉しいと思います。そういった視点を明日からの日常で少しでも取り入れていただけると幸いです」
「ジェンダーギャップの“今”と“これから” 〜テック業界で私たちが切り拓く新しい未来〜」の全編は、BoxWorks Tokyo & Osaka 2025サイトにて7/31までアーカイブ視聴いただけます。
そのほかのBoxWorks Tokyo & Osaka 2025 イベントレポート
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