企業経営においてファイルやコンテンツといった業務に必ずある情報の管理とその最適化は非常に重要な課題です。近年、ICTの発達により、企業が取り扱う業務ファイルは指数関数的に増大しています。そこで重要となるのがファイルサーバーもしくはその代替システムの適切な運用です。本記事ではファイルサーバーの概要について触れるとともに、「NAS」との比較、運用のポイント、課題、そして「クラウドストレージ」の展望を解説します。
そもそもファイルサーバーとは?
ファイルサーバーとは、ファイルの共有や管理を担うコンピュータを指します。企業では、主にデータやファイルの保管や共有、またはそれらのバックアップに活用されています。LAN接続によって社内ネットワークに構築することも可能であり、さまざまなファイルを組織全体で共有できます。デジタルの活用が必須となった現代において、特に人が直感的に理解でき、直接処理できるファイルやコンテンツを管理するシステムはDX時代では必要不可欠なものと言え、より一層重要視されるでしょう。
ファイルサーバーとして使用する機器はユーザーが任意に選択できます。例えば、以前は古くなったPCに専用ソフトウェアをインストールし、ファイルサーバーとして用いることもありました。しかし、企業でお古のPCをファイルサーバーとして利用するケースはセキュリティや利便性の観点から今ではまれになり、クラウドストレージが台頭する前は専用のハードウェアやNASを設置するのが一般的でした。ファイルサーバー用のソフトウェアとしてはMicrosoftが提供する「Windows Server OS」が主流となっていました。
ファイルサーバーとNASとの違い
NASとは「Network Attached Storage」の頭文字をとったもので「ネットワーク対応型HDD」や「LAN接続HDD」と呼ばれるファイルサービス専用の機器です。単なるHDDとは異なり、LANを介することで複数端末(PC)間のファイル共有を可能にします。
ファイルサーバーとNASは、どちらもファイルの保管やデータの共有を目的とする機器です。ファイルサーバーはさまざまな拡張機能を備えており、容量の増加や機能の追加といったカスタマイズもできます。一方、NASはファイルサーバーのような拡張性やカスタマイズ性は備えておらず、ファイルの保管と共有のみに特化した機器です。
NASはファイルサーバーよりも機能の柔軟性に劣りますが、特殊な設定やライセンスが不要で導入コストも安く抑えられるというメリットがあります。そのため、NASをファイルサーバーとして用いる企業も多く存在します。
ファイルサーバーを利用するメリット
ファイルサーバーを利用する主なメリットには主に次の2つがあります。
- 共有が容易になる
- バックアップが取れる
それぞれ詳しく解説していきます。
共有が容易にできる
ファイルサーバーはファイルをアップロードするだけで共有できるようになります。ファイルの受け渡しにメールやUSBを使うのは効率が悪いだけではなく、情報漏えいといったセキュリティリスクもあるので注意が必要です。ファイルサーバーがあれば、ファイルの破損やセキュリティリスクを軽減しながら情報共有ができるようになります。さらに、個人のPCでは扱いにくい大きい容量のデータについてもファイルサーバーに保存することで負担なく取り扱うことができるようになります。
バックアップが取れる
ファイルサーバーはファイルをネットワーク上に保存するため、個人のPCの故障や誤って削除してしまった場合の復旧が容易です。また、ファイルサーバーは権限設定もできるため、アクセスできるのは許可した人のみとなります。そのため、セキュリティの高いバックアップ先としても利用できます。
ファイルサーバー運用のポイント
ファイルやコンテンツといった「情報」は企業にとってヒト・モノ・カネに次ぐ第4の重要な経営資源であり、市場の競争優位性を確立するために不可欠な要素です。テクノロジーの発展とともに、AIやIoTによるビッグデータ分析や市場予測が普及し、ビジネスシーンにおけるデータ分析の重要性はますます高まっています。だからこそ、企業の情報を統括的に管理するファイルサーバーの適切な運用が不可欠と言えるでしょう。そして、ファイルサーバーの運用を最適化するためには、まず課題を押さえることが重要です。ここではファイルサーバーの課題について確認するとともに、効率的な運用法について解説します。
ファイルサーバーの課題
まず、運用管理における膨大なコストは多くの企業を悩ませている大きな課題です。ハードウェアやHDDなどの導入費用はもちろん、機器を設置する管理施設や保管場所も必要となります。また、サーバーやネットワーク機器を運用・保守・管理するエンジニアの存在も必須です。企業規模が大きくなれば、さまざまな支社や部署にファイルサーバーを設置する必要があり、それに比例して導入費用や管理コストが増大します。また、ファイルサーバーが情報のサイロとなってしまい、業務効率を下げる要因にもなりえます。
ファイルサーバーは拡張性や柔軟性に優れる一方で、導入費用や管理コストがかかるというデメリットもあるため、費用対効果に優れるNASを導入する企業が増加しています。NASはファイルサーバーと比較すると導入費用や管理コストが安く抑えられ、製品の価格自体も安価です。また、OSのインストールや特殊な設定などが不要で、システムの保守や管理における工数もファイルサーバーほど多くはありません。
NASでも残る課題
NASにもさまざまな課題があります。例えば、容量が足りなくなれば追加導入する必要があり、台数が増えれば結果的に管理工数が増加します。そして、台数が増えれば増えるほど上記のサイロ化が進み、効率やセキュリティ面での徹底も難しくなります。また、NASは複数台のHDDから構成されており、それらを仮想的に1つのドライブとして構築するRAIDと呼ばれる技術の利用が必要であり、構成するためには設定に関する知識が必要です。
ファイルサーバーの効率的な運用方法
ファイルサーバーを効率的に運用するポイントは、明確なルールを定めることです。例えば、フォルダ作成における社内ルールを統一することで、より効率的な管理につながります。ファイル名の先頭に作成日や編集日を入力するといったルール化も有効でしょう。
また、セキュリティ管理を徹底するためにも、アクセス権限設定の明確なルールも必要です。ファイルサーバーは企業全体での情報共有を可能にしますが、それは裏を返せば、設定次第で社内の人間が簡単に多様な情報にアクセスし得ることを意味します。そのため明確なアクセス権限の設定が不可欠です。
フォルダの作成やアクセス権限設定などの明確なルールを定め、定期的に運用状況を確認することで、安全で効率的な運用が可能になります。また、システムの保守・管理やセキュリティ管理をさらに効率化し、また昨今のDXや働き方の多様化に対応するためには、従来のファイルサーバーではなく、より時代にあった代替手段としてクラウドストレージへの移行を視野に入れる必要もあるでしょう。次の項目でクラウドストレージについて詳しく解説していきます。
クラウドストレージ導入も要検討
総務省が2021年に行った調査によると、約68.7%の企業が何らかのクラウドサービスを利用しているとされ、前年の約64%を上回る結果となっています。
企業が成長していくためには、必然的にさまざまなリスクを抱えなくてなりません。自社でサーバー機器を管理する場合、事故や自然災害などによってすべてのデータを消失するリスクがあります。しかし、自社管理が不要なクラウドストレージであれば、突発的な災害へのBCP(事業継続計画)対策としても有効です。また、クラウドサービスなので、いつでも、どこからでもアクセスができ多様な働き方の礎ともなります。
ファイルサーバーをクラウドストレージにアップデートするメリット
DX時代到来に合わせ、ファイルやコンテンツを管理する基盤をファイルサーバーからクラウドストレージにアップデートする主なメリットは次の4つです。
- 継続的なサーバー管理が不要となる
- 多様な働き方が可能となる
- セキュリティの強化が見込める
- 災害対応が可能となる
それぞれ詳しく解説していきます。
継続的なサーバー管理が不要となる
従来のファイル管理はサーバーを社内ネットワークに設置する必要がありました。しかし、クラウドストレージはサーバーの管理や運用をサービス事業者が行うため、自社内の負担を軽減できます。継続的な自社でのサーバー管理は、知見がある人材と多大な時間が必要です。トラブルが発生した際も基本的には自社での対応となります。
一方、サービス事業者に管理を委託できるクラウドストレージは固定費用がかかったとしても、トータルではコスト削減につながる可能性が高まります。クラウドストレージの利用料と人件費を事前に比較しておけば、削減できるコストも明確になるでしょう。中小企業での一人情シスには画期的かも知れません。
多様な働き方が可能となる
ハイブリッドワークが当たり前となりつつある現在、テレワークや在宅勤務、出張先からといった、業務や働く個々人の事情にあった場所からいつでも必要なファイルにアクセスできます。
これは何を意味するかというと、場所や時間、デバイスを問わず働けるということです。PC前提でモバイルからのアクセスに難があったファイルサーバーからクラウドストレージにすれば、ちょっとした資料のレビューや確認もスマホやタブレットでできます。デバイスの自由度が広がるだけでなく、オフィスに行かなくても業務に必要なファイルを活用できるようになるため、場所の自由度も広がり、効率的に仕事に携われます。
セキュリティの強化が見込める
ファイルサーバーはイントラネットでの利用の境界型セキュリティが前提なため、境界を越えられてしまったら一定のセキュリティリスクが発生します。また、自社での運用の場合は、セキュリティに関する問題もすべて社内で対応しなければいけません。
一方、セキュリティレベルの高いクラウドストレージを選択すれば、インターネット時代の新しいセキュリティの考え方であるゼロトラストが前提となり、より解像度の高いセキュリティが期待できます。また、自社対応とは比較にならない安全性を継続して確保できます。
災害対応が可能となる
自社のファイルサーバーは社屋の倒壊や破損、また洪水や浸水などの自然災害によってファイルやデータが消失する恐れがあります。
しかし、クラウドストレージは災害が発生してもインターネット上にファイルやデータがあるため、消失するリスクは低減されます。クラウドストレージはインターネット環境さえあればアクセスできるため、社屋の復旧を待たずに業務を再開することも可能です。有事の際のBCP対策としても大きな役割を果たします。
まとめ
DX時代となり多くの関係者と共有を行う現在、ファイルやコンテンツを適切に管理するファイルサーバーやその代替手段の重要性は増す一方です。クラウドストレージはファイルサーバーやNASよりも運用が容易でセキュリティレベルが高く、容量の追加やファイルを保管する以外の機能もある利便性の高いサービスで、効率化とセキュリティ対策にも有益です。また、自然災害や火事などが発生した際のデータ消失も防ぎ、社屋の復旧を待つことなく業務を再開することもできます。
ファイルサーバーのクラウド化を検討しているのであれば、IaaSにファイルサーバーをアップリフトするだけでなく、クラウドネイティブのクラウドストレージやコンテンツクラウドも検討してはいかがでしょうか。
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